ご存じの方は多いかもしれませんが、日本の国土の67%は森林です(令和4年 林野庁調べ)。そして、その樹木は「針葉樹」か「広葉樹」かに分かれています。字面から見ると、針葉か広葉かのちがい、つまり葉っぱの形が違うだけと思われるかもしれません。
けれど、木工芸の仕事をする者から見ると、少なからず異なった点があります。ほぼ同じように見える樹木を、どう捉えて仕事をしていくのか?木地から漆器を作っている私の立場から、お話しができればと思います。気長に読んでいただければ幸いです。
樹木の育つ森林についても言及していきますが、まずその前に樹木についてざっとおさらいしましょう。
樹木の進化は、約4億7千万年前の最初の陸上植物の出現から始まり、シダ植物、裸子植物、そして被子植物へと複雑化してきました。
現在では、針葉樹(裸子植物)と広葉樹(被子植物)が、地球上の森林を形成しています。針葉樹は、寒冷地や乾燥した地域に適応し、広葉樹は、温帯や熱帯など、より多様な環境に適応しています。
ところで、日本三大美林とは青森ヒバ、秋田スギ、木曽ヒノキのことで、美しい景観と良質な木材で知られています。そして、多くの人が森を思う時、上記の美林のように木々が整然と並んだイメージではないでしょうか?ただ、これらはすべて針葉樹林です。さらに言えば、人が植えた人工林に近い風景であり、また人工林では針葉樹がほとんどです。(森林全体でみた場合、針葉樹林と広葉樹林はほとんど同じくらいの面積です。天然林では、約2:8で広葉樹のほうが圧倒的に多い。)‐『森林.林業学習館』より引用
ではなぜ、人工林ではスギ.ヒノキ.カラマツなどの針葉樹ばかり植えられるのでしょうか?それは針葉樹の性質が植林.造林に向いているからです。広葉樹に比べ成長が早く(一説には2倍ともいわれます)、まっすぐに伸びるので柱など建築材が取りやすく、柔らかく加工しやすいためです。経済的に利用することを目的とする森林ということで、スギやヒノキなどの針葉樹は経済林と呼ばれることもあります。
ところが、昭和39年からの木材関税撤廃(木材貿易完全自由化)により、国内林業は斜陽となり経済が回らず放置され荒れた人工林も多いそうです(山仕事を支えてきた集落数も減少)。けれども、それから60年の間に状況は様々に変化しており、安定して大量に木材を供給できるよう、人工林を上手に活用していく必要がありそうです。
なじみのない用語が多いので、この辺でちょっと整理しましょう。
樹木を単体では針葉樹か広葉樹かと見るのですが、それが育つ環境である森林はその成り立ちで区別します。人が苗木を植えた森林は「人工林」と呼ばれ、対して人手が入らず自然の力によって育った森林は「天然林」と呼ばれます。天然林では鳥や風の力で運ばれた種子が育つので、針葉樹も広葉樹も混ざっています。
そして、人工林と天然林の中間のような里山林もあります。人里近い森林のことで、薪や木材の伐採や落葉の採取など、昔から生活に利用されてきました。天然林に比べて適度に人の手が加わることで、多様な生物が生息・生育できる環境が維持されてきました(里山のイメージに含まれそうですが、山林の入会地として共同利用されてきました)。
また、先に述べたように林業白書では道路に接する人工林を経済林として循環しながら利用する案が示されています。森林は利用目的によって砂防林.魚付き林(保安林).水源涵養林など様々な呼ばれ方をします(動植物を育む地域であり、二酸化炭素を吸収し、人の心身に良い影響をもたらすなど、日本の森林は樹種を問わず多くの恩恵をもたらすとされます)。