次に天然林をみていきましょう。工房近くに天然林の公園がありそこを歩くと、太い枝を自由自在に伸ばした多種の広葉樹が多く、景観は変化に富んでいます。中には針葉樹もまばらに育っていますが、この針葉樹から効率的に建築材を取るのはまぁ難しいだろうと、林業には素人の私が見ても思います。
では、天然林に多い広葉樹はどのように利用されるのでしょうか?材質が硬くて丈夫なので家具作りに、また日用品や器物を作るために使われます。私の木地師の仕事では、もっぱら広葉樹を使っています(中には針葉樹で漆器の木地を作る人もいます)。
また、針葉樹が約500種類に対して、広葉樹は約20万種といわれており400倍も多様です(この理由は学術的に不明なようです)。広葉樹にはさらなる分化があります。
深まりゆく秋の森は美しいのですが、紅葉し落葉するのは広葉樹です。これは「落葉広葉樹」と分類され、葉が落ちるのは厳しい冬に備え葉を落とし生命活動節約のための休眠だとされます。
しかしながら、広葉樹でも冬に葉を落とさず「常緑広葉樹」に分類される樹木もあり、ツバキやクスノキなどです。葉につやのある常緑広葉樹を「照葉樹」といい、西南日本の温暖な地域に広く分布しています。
『樹木の分類』を見ると、常緑広葉樹は4種類に分かれそのうちの一つが照葉樹とされます(九州森林管理局HPより)。
照葉樹は低山に多いため伐採開発されやすく、一部地域を除きまとまった面積の照葉樹林はほとんど失われたそうです。けれども、鎮守の森(社寺林)には昔からそこに生えていた照葉樹が切られず残されて、小さな照葉樹林となっている所もあるそうです。そういえば、お寺や神社に行くと迫力ある大木をよく目にしますが、神聖な場所として守られてきたおかげなのでしょう。
そして、この照葉樹林帯から東アジアに広がる共通の文化が発生したとの、スケールの大きな学説があります。ご参考に、林野庁のホームページからご紹介しましょう。
私たちの住む日本から東アジアに広がる照葉樹林帯には、共通の文化がたくさんあります。照葉樹林の恵みがその起源と言われ、「照葉樹林文化」と呼ばれています。
大豆発酵による納豆や味噌・醤油、魚の姿寿司を自然発酵させて作るナレズシ、水さらし法であく抜きをしたクズ粉やワラビ粉、そしてコンニャク。サトイモやヤマノイモ(ナガイモ)が栽培され、モチ米、モチアワ、モチキビなどの粘り気の多い種子澱粉を持つモチ種も共通に分布しています。めでたい時には赤飯、餅、甘酒を振る舞う習慣も同じです。
食物以外でも、野生の繭から作る絹の利用、ウルシの木などからうるしをとって漆器を作る技術も照葉樹林帯が発祥の地です。《九州林野管理局-林野庁》
この学説の発表後に異論も出たようですが、漆器づくりは照葉樹林文化のおかげだったのかと、ロマンを感じます。
次回は今普及しつつあるスマート林業を見てみましょう。